≪話す≫ことについて高をくくっていませんか?

本コラムは、2012年〜2015年まで月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社)にて、藤島幸恵が「佐藤かなめ」のペンネームで掲載していたものを転載しております。
※出版社の承諾をえております。

2012年4月号寄稿分


 営業の世界では「こんなに努力しているのにご契約いただけないのは私にセンスがないからだ」と悩み、辞めていく人がたくさんいます。私自身も若い頃にそう思いかけていた時期があったのですが、それは大きな勘違いでした。

当時の私がダメだったのは、センスがないからではなく、努力の方法や考え方、お客さまとのコミュニケーションにおいて「ちょっとしたボタンの掛け違い」があったからなのです。

そこで、この連載では、≪真面目で一生懸命にがんばっているのに、思うように結果が出ない人≫のために、私の経験談をお話ししようと思います。先輩顔でお教えするつもりはありません。皆さんの努力や知識がきちんと報われるように、一緒に正しくがんばっていきましょう!

1,営業の主役はお客さまであることを忘れない

本誌2月号では、連載前の特別企画として「ロープレ研修」によくある3つの問題点と改善案について書きました。内容を覚えていらっしゃいますか?今回の話にも大いに関係あることなので、ちょっと復習してみましょう。

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(Q)なぜロープレ研修をするのか?
(A)なめらかに話さないようにするため

→なめらかに話すためではありません。その逆です。商談では、上手に話しすぎてはダメ。なめらかすぎると心に残らないし、お客さまが考えるヒマがなくなってしまいます。商談は、自分トークの披露の場ではありません。自分が話すのではなく、相手の話を聴くことが大事です。ト書きを挿入して〝しゃべりすぎないためのスクリプト〟を作りましょう。

(Q)ロープレをどの時点から始めるのがよいか?
(A)着席する前の時点からスタートする

→着席した状態からではなく、その前の段階(自分が入室する、相手を席へ誘導する等)から始めるべきです。なぜなら、相手の情報は少しでも多い方がいいし、商談では、そこに至るまでの過程(積極的な気持ちで席に着いてもらう、営業マンに対して心を開いてもらう等)が、とても大事だからです。お客さまに一人の人間として興味を持ち、観察し、世間話もしつつ、立体的な情報を集めましょう。

(Q)説明に関して心がけるべきことは?
(A)相手にいかに興味を持っていただくか? を心がける

→商品内容を把握し、正確にお伝えするのは当たり前。ただ単に商品を知りたいだけなら、お客さまはインターネットやパンフレットを見ればいいはず。そこに営業マンがいる理由は、相手の興味をピックアップし、それを掘り下げられるのは人間だけだからです。相手が興味を持っているところをコンパクトにまとめ、わかりやすくお伝えするのが営業の役割だと私は思います。

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この3つの問題を通して、私がお伝えしたかった結論は、「営業の主役はお客さまだ」ということです。ロープレ研修の最終的なゴールは、もちろん「ご契約をいただくこと」ですが、≪スクリプト通り淀みなく説明できるようになろう≫とか、≪説得するスキルを高めよう≫とか、≪成績をもっと上げたい≫といった自分側の理屈が強い場合、そこでは、目の前にいるお客さまが〝置いてきぼり〟になっています。

それでも、明確なニーズのあるお客さま、つまり、誰が相手をしても売れるお客さまになら売れるのでしょうが、そんなお客さまばかりではない以上、常に相手を主役にしている営業マンと比べて、成績や安定感に差があるのは当然です。ちなみに、この3つの問題を、ある新人営業マンにしてみたら、「私はすべて逆をやっていました!」と驚いていました。まさに、そういう人にこそ、この連載は読んでいただきたいのです。

2,臨機応変が出来るのは基本形をマスターしているから

ボタンの掛け違い1:会社からもらったスクリプトをどのように使うか?

→ × 自分らしさを活かすように一部アレンジする。
→ ○ 一字一句そのまま話せるようにマスターする

前置きが長くなりましたが、今回は、「≪話す≫ことについて高をくくっていませんか?」をテーマに進めていきたいと思います。ところで、皆さんは、会社からスクリプトを渡されたら、どのように使っていますか? 先に回答を言うと、自分勝手にアレンジせず、一字一句そのまま話せるように練習をすることが大事です。

よくできたスクリプト(マニュアル)というのは、過去の成功体験から導き出した答え(細かい言い回しなど)によってつくられています。それなのに、新人さんがテキトーに話すと、意味がなくなってしまうことがあるのでます。臨機応変なトークが出来るのは、基本形をマスターしているからこそ。

例えば、私は、今ではどんな資料でも臨機応変に対応できるようになっていますが、それも、これまでの○十年の経験があるからです。それでも私は、誰かに営業話法を教わったときには、言われた通りそのままやってみる段階を必ず踏んでいます。だからこそ、その結果を踏まえて、後で、より自分らしくアレンジすることができるわけです。また、基本の型を知っているからこそ、失敗した時にまたそこに立ち戻ってやり直すことができます。

ここで言うスクリプトとは、自転車の補助輪のようなものです。最初から補助輪なしでは転びっぱなしになり、必要以上に痛い思いをしなければなりません。補助輪から始めて、自転車の本質を理解しながら練習していけば、外れたときには基本をマスターしているはずです。

3,「話す=伝わる」ではありません

ボタンの掛け違い2:ロープレを実演する人は誰がよいか?

→ × 出来る人が良い見本を見せる
→ ○ 出来ない人にこそ時間をとる

以前、ある会社の営業研修にうかがったときのことです。そこで一番成績の良い人が前に出て、皆にロープレを見せました。私は、その後で全員ロープレするのかなと待っていたら、盛大な拍手をして研修が終わってしまったのです。拍子抜けしました。

これでは、できない人はいつまで経ってもできないままでしょう。ロープレは、成果の出ていない人ほど、何度も繰り返して皆の前でやるべきなのです。もちろん、経験に裏打ちされた完成形(見本)を見ておくことも大事です。しかし、見たところでどうせ同じようにはできません。それは、その人が長年かけて紆余曲折しながら作り上げたスタイルであり、すぐにマネできたら、皆がトップ営業マンになってしまいます。

ですから、私は「ロープレを見せて下さい」と頼まれたときには、こう答えています。「他人のロープレを見ても効果ないですよ。ご契約をいただきたいなら、下手でも自分が何度もやらなければ……。練習につきあってあげるから今、ここでやってみてごらんよ」

≪手本を見せるだけ≫で終わる営業研修の不思議

ところで、私が行きつけの美容室では、新人さんが毎晩夜遅くまでマネキンの髪の毛をカットしています。カットもパーマも、たくさん経験することでしか上達できないからです。先輩スタッフに話を聞くと、新人にカットを見せるような指導はほとんどしないそうです。努力の賜物で身に付けた熟練の技を新人に見せても、どうせ出来るわけがない。だから、ひたすら経験を積ませるのです。業界の技術コンテストもありますが、それはあくまでコンテスト用のカットであって、日常の実務で、コンテスト用のテクニックを見せて指導が終了――なんてことは絶対にありえない。そりゃそうだ! とうなづける話です。

何事においても経験を積まなければ上達しないことは、誰もがわかっています。しかし、不思議なことに、なぜか営業の世界では≪先輩のロープレを見せて終了≫ということが多々あるのです。

なぜでしょう? 

私が思うに、日本語を≪話す≫という作業が子供の頃から当たり前にこなしてきた、きわめて日常的な動作だからではないでしょうか。「やり方は教えたから、あとは自分で練習すれば話せるでしょ?」というわけです。先輩が見本を見せるのがメインで、肝心の新人たちが繰り返し練習する時間を取らない研修では、話すというスキルに対して高をくくっているとしか思えません。

試行錯誤を繰り返してきた一部のトップ営業マンと指導者たちは、ビジネスで≪話す≫ことがいかに難しいか身をもってわかっています。内容的な事さえ把握しておけば、練習しなくても本番で何とかなると思ったら大間違いです。ビジネスの商談を、日常のコミュニケーションと同じレベルで捉えている人は、上のランクに行くことはできません。

皆さんは、お客さまと対峙する前に、どのくらい準備をしていらっしゃいますか?

ちなみに、私は普通の人よりは少しだけデキるとは思いますが、保険業界全体では大した営業マンではありません。その私でさえ、新しい営業トークをマスターするときや、研修講師をするときには、作ったスクリプト(資料)を少なくとも数十回は本番と同じ時間割で練習しています。話すことの難しさを知っていたら、何度も練習せずにはいられないと思います。

相手が〝気持ちを持った人間〟であることを忘れない

ちなみに、書き添えておけば、経験の浅い人が、ロープレ(練習)をしないで本番に挑むと、余裕がないので、得てして一方的な話し方になりがちです。
結果的に、マシンガントークになって、何が言いたいのかわからないということになってしまうのです。話す事に一生懸命になって対話を忘れる。相手の考えをまとめながら話せないから自分が本当に言いたいことが伝わらない……という悪循環です。

ですから、トークとスクリプトを熟成させていく段階では、
1,一字一句そのとおりに話すための基本スクリプト(必要項目をすべて記した綿密なスクリプト)
2,臨機応変な対応をするためのスクリプト
3,基本が分かった上での自由な発想(いつでも戻せる出たとこ勝負)

――の3段階がありますが、どの段階にも必ずそこに【気持ちを持った相手】がいることを忘れないでください。

仮に、ロープレ練習をきちんとしてから面談したとしても、お客さんの気持ちが不在の《説明》をしていたら同じことです。先ほどの美容室の店長も、おっしゃっていました。「カットの技術は修練あるのみ。でも、ヒアリングの仕方やコミュニケーション術は教えないとダメ。今のお客さまは厳しいし、競合店もひしめいている。その中で自分を選んでもらうにはカットの技術だけでなくコミュニケーションスキルを磨かないと生き残っていけない」

さて、今回は、ロープレを通して、≪話すことの難しさ≫について触れてきましたが、いかがでしたか? 

(初出)月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社発行)