人間は思い込みで出来ている

本コラムは、2012年〜2015年まで月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社)にて、藤島幸恵が「佐藤かなめ」のペンネームで掲載していたものを11話のみ期間限定特別掲載中!下記コラムを一部収載し、バージョンアップさせた書籍を製作中です。 こうご期待!

 皆さんは、「オオカミ少年」の話をご存知ですか?

「オオカミが来たぞ~」と少年が嘘を繰り返していたために、本当にオオカミが来たときには村人が誰もまともに相手にせず、ヒツジも少年も食べられてしまった、という話です。

この教訓はなにか?

先日、この話の教訓は何か? について友人と意見を交わしたところ、面白い結果になりました。友人は、「嘘ばっかりついているとひどい目に遭いますよという教訓でしょ?」と言いました。しかし、私は、《また嘘だろうという思い込みが、自分の中で絶対に嘘だという真実に変わってしまったときのリスク》を教えてくれているのではないか――と思っていたのです。

私たちは目を見合わせて「ぷっ!」と笑ってしまいました。友人はオオカミ少年側から、一方の私は村人側から考えていたので、同じ話なのにまったく違う教訓になってしまったわけです。こういうことって、皆さんも、お客様との関わりや、社内の人間関係、日常の家族との関わりの中で、よく起こりませんか?

最近のことですが、私は研修の内容の件でスタッフと言い争いになってしまいました。互いに自分が正しいという考えを手放せず、相手に対して「きっとこう思っているに違いない!」という思い込みを持ったまま接していたので、話は平行線。嫌~な気分で、ミーティングが終了しました。そのときの私は、自分の思い込みには全く気付かずに、完全に相手のせいにしていました。

こうした「自分が正しい」という思い込みは、すぐに自分(脳)の中で《事実》に変わります。

数ある脳の原理の中に、《なるべく少ない労力で、わかりやすくて安心できる的確な結論を出したい》という「節約的安定化原理」というものがあります。少ない情報量でも脳は早く安定したいがために、自分に都合のいい、とりあえず適当な答えを出して、不安定な状態から脱出しようとするのです。そして、一度答えを安定化させてしまうと、なかなか修正できないのが「節約的安定化原理」の性質です。だから、一度思い込んでしまうとそれが事実なのかどうかは別として、「そうかもしれない……」から「絶対にそうだ。当然そうだ!」に代わってしまうのです。

でも、実際にはどちらが正しいかなんてわかりません。同じものを違う方向から見ていたら、どちらも正しくなるわけです。「私にはこう見えているけど、もしかしたら違う視点もあるのかもしれない」ということに気づくことができないと、自分の作った狭い世界(価値観)の中で、生きていくことになります。人間関係において「自分が正しい」という思考に囚われてしまうと、「周りは間違っている」という新たな思い込みが出てきます。〝間違っている人〟にしか会えない人生なんて寂しいですよね。

思い込みへの対処法は?

 では、思い込みには、どうやって対処すればよいのか?
 脳の仕組みから言っても、思い込みをなくすというのは不可能に近いです。
ですから、私はあきらめて共存することにしています。
大切なのは、思い込みに気づくことです。

そのためには、
◎いつでも、いい意味で「自分が間違っているのかもしれない」という《自分を疑う》思考を持つ、
◎「私は○○と思い込んでいる」と口に出して言ってみる
◎相手をいろいろな立場から見る(仕事で会う姿だけではなく、一人の人間として、家庭人としての姿などを多面的にイメージしてみる)
◎他人の意見を聞く。信頼できる人に自分に対するフィードバックを頼んでおく

ことなどをお勧めします。

人間は、自分のフィルター越しに(色眼鏡をかけて)世界を見ています。言い換えれば、自分が見たいようにしか見ていないということです。そうした自分の思い込みに気づくことで、相手を別の角度から理解できますし、他人の考えを受け入れる小さなスペースもできます。そんな経験を繰り返していくことで、自分の見える世界も変わっていきます。

ところで、ここまで読んでいただいて、「思い込みは悪者」と思いった方はいらっしゃいませんか? それも思い込みですよ(笑)。 

思い込みは、使い方次第で良くも悪くもなるのです。例えば、周りの人々や、起きた出来事に対してポジティブに、感謝の気持ちを持って、「それ、いいですね!」「ありがたい!」「楽しみだ!」などと口に出して言ってみると、脳は勝手に「事実そうなんだ!」と判断してくれます。鏡に向かって「美しいわ」「かっこいいぜ」という言葉を毎日投げかけてみましょう。本当にそうなりますよ!

(初出)月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社発行)