「YES AND」で深まる信頼

本コラムは、2012年〜2015年まで月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社)にて、藤島幸恵が「佐藤かなめ」のペンネームで掲載していたものを転載しております。
※出版社の承諾をえております。

アドバイスが欲しいと、営業成績が伸び悩んでいる後輩女性に相談された時のことです。

私が何か言うたびに、彼女が、「確かにそうですね。でも、○○だと思うんです」と、片っ端から反論してくるので、辟易してしまいました。いわゆる「YES BUT法(そうですね。ですが……)」をあからさまに使って自分の主張を押し通そうとするのです。私は彼女の成績が伸び悩んでいる理由はもしかしたら、これかもしれなと思いました。きっとお客様との会話でも、こんな調子なのかもしれません。

説得のテクニックとして知られる「YES BUT法」とは、思い切り悪く言えば、《相手の話を聞いているフリをしつつ、自分の描いた思い通りのゴールに持っていくための手法》です。彼女は、この手法を使って他人をコントロールしようとするあまり、本当はそこにある《相手の気持ち》が、ないがしろにされていることに気付いていないのです。それがどんなに正論であっても、後から「なんだか上手く説得されちゃったな」と、嫌な気持ちになったり、しこりが残ってしまったら、その後の信頼関係は長く続きません。

とはいえ「YES BUT法」のすべてが悪いわけではありません。相手をコントロールするためのテクニックとして使うのではなく、相手の気持ちを尊重して話していく中で、結果的に「YES BUT」になるのでしたら、それは自然な流れです。

【YES BUT】から【YES AND】へ

私は、営業の場面に限らず、現代のコミュニケーションに必要なのは「YES BUT」ではなく、「YES AND」ではないかと考えています。私がイメージする「YES AND」とは、例えばこんな会話です。

先日、ある零細企業の経営者との面談中のこと。話していて元気がない感じを受けたので、「何か引っかかっていることがあるのでは?」とお聞きしました。するとその社長は、「新規事業のことでいろいろあってね……」と言います。信頼している知人に新規事業のアイデアを話したところ、即座にピシャリと否定されたうえに、失敗するであろう理由を一方的に並べられたのだとか……。

「YES BUT」ならぬ「BUT」の会話ですね。

その社長は、「批判の内容は想定内だった。自分でも弱点もわかっている。ただ、議論にもならなかったことが残念でね」とおっしゃっていました。そんなふうにモヤモヤしている最中に、私にも相談をして下さったのです。そのアイデア自体は面白いものの、足りない部分があるかなと私も思いました。しかし、ご本人も事業計画の弱点はおわかりになっています。

そこで私は、私に期待されている役割を考え、「YES AND」でこんなことを申し上げました。

「いいですね! それは○○な点が特にいいですね。そして○○さんのこんな思いがいっぱい詰まっていますよね。そこに○○を付け加えたら、さらに良くなる気がします」
社長さんは、「それいいね。そんな視点があったんだ! いろいろな角度から慎重に検討してみるよ。ありがとう」と喜んで下さり、そこからさらに話が発展していきました。

相手からさまざまな要望や不安要素が出てきたときに、最初から否定する(BUT)するのではなく、また、肯定してるふりして実は否定する(YES BUT)のでもなく、最初から最後まで相手の思いを受容して、さらに(YES AND)拡げていく――。私が理想としているのは、こうしたコミュニケーションです。

ただし、それもケースバイケースであることも忘れてはいません。

「YES AND」は、悩んでいる相手と一緒に迷走しやすいリスクもはらんでいますから、限られた時間の中で結論を出さなければいけない状況であったり、相手が「導いてほしい」と感じているときには、こちらである程度の着地点を考えておくことも必要です。つまり、形式に囚われることなく、対話をする中で相手の価値観を見つけ出し、自分の想定した着地点に固執せずに柔軟な対応ができること――が大切なのです。

かくいう私自身、昔は「YES BUT法」を多用している時期がありました。商談の着地点を決めておかないと、未熟な営業マンは話が“とっちらかって”収拾がつかなくなるからです。

読者の方の中で、まだビジネス経験の浅い方も同じ状況だと思います。ご自分の引き出しを増やしつつ、会話の中ではできるだけ「YES AND」を意識してみてください。それだけでも、お客様からの信頼が高まるはずです。

(初出)月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社発行)