スクリプトは一字一句正確に話す

本コラムは、2012年〜2015年まで月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社)にて、藤島幸恵が「佐藤かなめ」のペンネームで掲載していたものを転載しております。
※出版社の承諾をえております。

実は、私、お菓子作りが趣味です。
長年、生保コンサルという仕事をしていると、形の残るものを作りたい欲求に駆られるというか、クリエイティブなものに憧れさえ感じるのかもしれません。
無心にタネを作り。オーブンに入れ、出来上がりを想像しながら、膨らむ姿を見ているのが至福の時……。いい香りが充満して、出来上がったものをラッピングしながら、届ける相手の喜ぶ顔を想像する――というお菓子作りは、まさに五感を刺激してくれる趣味なのです。皆さんも、さまざまな趣味や気分転換方法をお持ちだと思いますが、今回は、このお菓子作りから学んだ話をしたいと思います。

1,ケーキ作りで大失敗した理由

先日は、パイ皮にくるんだベイクドチーズケーキを作ったのですが、久しぶりに大失敗してしまいました。いつもは、慣れていてもインターネットや本で分量や作り方を確認しながら行うのですが、今回は少量だったので、全ての材料をドサドサッと目分量でフードプロセッサーに入れてしまったのです。するとタネの状態から分離してしまっていてどうにもなりません。最初からやり直す気にもなれず、焼けば何とかなるかも……などと自分に言い聞かせ、スイッチオン。

焼いている間中、いや~な匂いが立ち込めていて、オーブンの中では分離したバターが浮き上がりブチュブチュと音を立てて焦げています。「あ~、やっちゃった~」と思いながら、私は失敗の原因を考えていました。まず、「チーズケーキは慣れているから簡単」と【高をくくってしまった】ことが一番の原因です。何度もやっているから大丈夫と思ってしまったのですね。具体的には、少量だからと高をくくり、目分量にして、工程も順番通りにやりませんでした。

お菓子を作る人ならわかると思いますが、分量と順番はとても重要なのです。量を間違えると膨らまなかったり、順番を変えると違うものになってしまったりします。出来上がりを食べましたが、チーズケーキの食感はなく、匂いも悪く、不味くて捨ててしまいました。

2,ケーキ作りと営業トークの共通点

今回の失敗は、ちょっと出来るようになったからといって、私がレシピ通りに作らなかったことが原因です。
私はケーキを捨てながら、営業トークに関して新人さんに注意しているのと同じ失敗を自分がしちゃったな、と大いに反省していました。というのも、新人営業さんが頑張っても成果が上がらない理由の1つに、スクリプト(マニュアル)通りに話さないということがあるからです。

私自身もそうでした。まだ経験が浅かった頃、何度か商談に成功したからといって調子に乗り、準備不足や段取り不足で何度も失敗したことを思い出します。なにより辛かったのは、次に何を話すのか分からなくなり、言葉が出てこなくて話がめちゃくちゃになってしまったときでした。以前、この連載で「日本語を話すことに高をくくらない」という話をした事を覚えていらっしゃいますか? 

会社からスクリプトを渡されたら、自分勝手にアレンジせず、一字一句そのまま話せるように練習をすることが大事なのです。

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× 自分らしさを活かすように一部アレンジする。
○ 一字一句そのまま話せるようにマスターする。

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では、なぜ一字一句変えずに話さなければいけないの? 営業力とは人間力なのだから、自分の魅力が活きるように、多少アレンジして話した方がいいのでは? ――そんなふうに思われる新人営業さんは多いと思いますが、それは勘違いです。 

よくできたスクリプト(マニュアル)というのは、過去の成功体験から導き出した答え(細かい言い回しなど)によって作られています。それをまだ力不足の自分が勝手にアレンジしたら台無しになってしまいます。極端な話をすると、「が」を「は」と言い換えたり、言葉を1つ飛ばしただけでも、お客様が受ける印象はまったく変わってしまうのです。ベテラン営業が臨機応変なトークをして成果を出せるのは、基本形をマスターしているからこそ。大事なポイントもわかったうえで話しているので、アレンジしても大丈夫なのです。

また、基本の型を知っているからこそ、失敗した時にまたそこに立ち戻ってやり直すことができます。ケーキも何度も作っていると、洋酒を入れたり、トッピングを変えたり自分なりのアレンジが出来るようになりますが、基本のレシピは絶対に変えてはいけないし不動なのです。それなのに、新人のうちから自分流にアレンジしていては、本当に大事な基本が身に付きません。それは、よく営業現場で「本社の作ってきたスクリプトは現場で使えない」と話されていることとは別の話です。

3,【セールスプロセスの確立】と【スクリプトの重要性】

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× 営業スクリプトは商品を上手に説明するために作る
○ 営業スクリプトはお客様に最後まで興味を持って聞いていただくために作る
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先日、保険トップセールスマンのセミナーを聞く機会があったのですが、その冒頭で、「売れるセールスマンを育てるためには【セールスプロセスの統一化】と【販売プロセスの平準化】が重要だ」と話されていました。

ファーストアプローチから成約、紹介依頼に至るまで綿密なスクリプトがあり、経験者が入社しても、必ずスクリプトを一字一句、繰り返し覚えてもらうそうです。何度も練習し、お客様の前で実践し、また同じ事を練習していくうちに自分のものになる。間や表情まで、すべてを叩き込むそうです。その結果、売れる営業マンが増えるのですから、この会社が「営業マン再生工場」と呼ばれているのも頷けます。

アメリカの保険会社にも、一人あたりの生産性が群を抜いている会社があります。やはり、その会社も同じように【セールスプロセスが確立】されています。良くできたスクリプトには、飽きさせない場面展開(ドラマなどのチャプターのような)や集中力を保ってもらう為のスパイスが所々に散りばめられています。同じ時間、同じような内容の話をしても、苦痛な長時間に感じるか、興味深々な時間になるかの違いはここにあります。

個別のスクリプトの良し悪しは別として、では、スクリプトを使う上で重要なのはどの部分でしょう?この連載で、何度も繰り返していることですが、特に経験の浅い方は商品説明に必死になりがちです。スクリプトについても商品説明にスポットを当ててしまう方が多く見受けられますが、でも、ちょっと待って下さい。もし、自分がお客様だったらどうでしょう? まだ、話を聞く準備も出来ていないのに商品説明をされても耳に入らないでしょう。

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× 保険商品は複雑だから、説明の部分が重要
○ 前置きや間、つなぎ言葉、ト書き、事例などが重要
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営業スクリプトは、商品をうまく説明するためのものではありません。 
本当に覚えたいのは《前置き》《つなぎ言葉》《間》《行間》《ト書き》《事例》などです。分かりやすい例でいうと、場面展開をするにあたって「それから」と繋ぐのと「ところで」や「実は」と繋ぐのとではまるで違う話になるのです。《間》は言わずもがなです。これはお客様が考える時間ですから重要なのに、わかっちゃいるけど耐えられない(笑)。だから、わざわざ書いてあるのです。

《事例》も飛ばしやすいのですが、保険の場合は形のない商品だからこそ、どんな時に役に立つのか、なぜ必要なのかの方が興味を持てます。薬局で、薬の名前や成分を言われてもピンとこないですよね。それよりも効用を知りたいはずです。生保営業を難しいと感じるのはなぜかというと、それは、どうしたらご契約がいただけるかわからないからです。だからこそ、形が必要なのです。極論を言えば、ファーストアプローチから成約までのスクリプトがあって、プロセスが解れば、優劣の差はあっても誰でも出来ることなのです。

良いスクリプトがなければ
先輩のロープレを書き写す

最後に、これを読んで、「私の職場には良くできたスクリプトがない!」と嘆く方へのアドバイスです。そういう場合、まずはそのスクリプトをきちんと使っているかを検証してみましょう。とはいえ、現場の実態にそぐわない、机上だけで考えたようなスクリプトがあることも事実です。その場合は、優績者にロープレをしてもらい、その人たちのトークを録音なり録画するなりして、一字一句を書き写してみてください。それこそ、《間》《つなぎ言葉》まで全てを再現するのです!

不思議なのは、別々の方に何人やってもらっても同じような流れのスクリプトが出来上がることです。基本の形をマスターしている人たちが優績者なんだな――ということが改めてわかると思います。今回は、お菓子の失敗からたくさんのことを学びました(笑)。営業ノウハウって、意外と日常のちょっとしたところに転がっているのですね。

~コラム~
上司への報告は結論から話そう

「クライマックス話法」をご存知ですか? 最初は核心に触れず徐々に話を盛り上げて、最後に結論を持ってくる話し方です。一般的に、相手がその話に最初から興味がある場合に使われます。逆に、「アンチクライマックス話法」というのは、先に結論から話して「なぜならば」と後から理由を説明するやり方です。興味の先が確実にわかっている場合か、あまり興味のなさそうな話の時に使うことが多いようです。どちらも相手ありきで、目の前にいる相手が何を考え、何を求めているかで使い分けますが、上司への報告は、アンチクライマックスにしましょう。でないと、イライラして「で、結論は?」と聞かれかねません。
 

(初出)月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社発行)