自分の説明が相手に届かない理由

本コラムは、2012年〜2015年まで月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社)にて、藤島幸恵が「佐藤かなめ」のペンネームで掲載していたものを転載しております。
※出版社の承諾をえております。

先日、「社内のロープレ大会で一位になったのに営業成績が伸び悩んでいる……」という男性から相談を受けました。

実際にロープレを拝見したところ、さすがに一位だけあって、彼のしゃべりは流暢で美しい。マニュアル・トークとしては、ほぼ非の打ちどころがありません。でも、正直、私の心には響かなかったのです。ロープレの最後に私が「検討します」と気の無い返事をすると、彼は「それがいつものパターンなんです」とため息をつきました。

「私の何が悪いのでしょう? 会話は進むのに、最後はそうなってしまいます。“押し”が足りないのでしょうか?」

もちろん、違います。

ここで考えるべき問題点は、同じスクリプト(台本)を使って誰よりも上手に話をしているのに、彼のトークは《心がない》とか《上っ面な感じ》だと相手に思われてしまうことです。そういう人は、周りによくいますよね?他人事ではありません。もしかしたら、場面によってはあなたにもそういう部分があるかもしれませんよ。

自分自身が“納得”していますか?

話が上っ面な感じになってしまうのは、《自分の仕事の役割》《説明の前提となる知識》について、自分自身がわかっていないから。納得していないまま話しているからです。きれいな言葉を操って、耳触りのよいトークができたとしても、それだけでは相手の心には入っていけません。例えば、ふだん自分が使っていてほれ込んでいる商品を友人に「これ凄いんだよ~!」と勧めるときや、相手の利益のために「これをどうしても伝えたい!」と思ったときの、情熱と力強さを思い出してみてください。

商談では、知識やテクニックの有る無しの以前に、自分自身が“納得”しているかどうかの方がよほど大切なのです。

では、どうすればいいか?

そのため、私は営業研修を行う際、参加者に、【この研修で自分が知りたいことは何か?】を最初に考えてもらっています。そして、前提となる知識や背景を勉強したうえで、【それについて自分がどう思ったか? 何を感じたのか?】を、言葉にして伝えてもらいます。

商品に関する情報を“自分事”として捉えることで、結果的にお客様目線になれるからです。自分自身に置き換えて考えることで、参加者に納得してもらうわけですね。この納得が、営業マンとしての軸になります。講師の立場から言うと、研修の効果を高めるには、この導入部がとても重要なのです。

もちろん、研修が進んでも、折りに触れ、【自分がどう思ったか? 自分ならどうするか?】という問いを投げていきます。それをして初めて、ノウハウやスクリプトが生きるからです。前述の《ロープレ大会で一位になったのに成績が振るわない人》は、上手く伝えること(読むこと)に意識の焦点を合わせていて、肝心の中身については、自分で納得できていないのでしょう。

このことは、役者さんが行っている“役作り”にも似ています。

俳優がある役柄を演じるときには、単にセリフを覚えるだけではなく、その人物の詳細なプロフィールや時代背景、文化、風俗、言葉の意味などについても調べます。一流の俳優ほど、より徹底して調べていることでしょう。それだけではなく、軍人の役なら自衛隊に体験入隊するとか、役柄と同じ職業を経験してみるなどして、その役柄の根本のところをつかもうとしているはずです。

セリフは完璧に言えて当たり前。良い俳優はそれ以上の準備をし、自分自身が演じる役に“納得”しているからこそ、その演技が観客の心に刺さるし、舞台の上のアドリブも自然に出てくる……。

商談だって同じです。

自分に腹落ちしていることは、相手の心にシンプルにズドンと入っていきます。思いもよらぬ反応が返ってきても、相手を認めたうえで自分の考えを堂々と展開できるのです。

実行してほしい3つのこと

営業成績が伸び悩んでいらっしゃる方は、
・まず最初に、その商品や伝える知識について納得しているのか? を自分に問うてみてください。

・そして、腹落ちしなければ上司や同僚に尋ね、少なくともこれから説明しようとしている範囲についてはお客様より圧倒的な知識と納得を得てください。

・最後に【私はどう思うのか? 相手の立場ならどう考えるのか?】といった根本のところを、心で感じてみてください。

お客様からの信頼が得られるのは、その後の話です。前述の、私がアドバイスにした彼にしても、もともとスキルは抜群なのですから、その気づきさえあればグングン伸びていくことでしょう。

(初出)月刊「FInancial Adviser」(近代セールス社発行)